ひとりも見捨てないことを、あきらめない

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アクティブ・ラーニングでの授業準備 「単元目標を決めよう」

 アクティブ・ラーニングで授業を行う際には、授業そのものは、「教科書の何ページから何ページを全部解きなさい。解き方を他の生徒に説明し、納得してもらったらサインをもらいなさい」でオシマイになることがよくあります。したがって、ちょっとみただけでは、先生は楽をしているように見えます。しかし、実は、先生は今までよりも、はるかに考えています。

 でも、先生のアタマの中は見えません。いったい、アクティブ・ラーニングを実施している先生は、何を考えているのかを、覗いてみることにします。まずは、「単元の目標の決め方」についてです。

 アクティブ・ラーニングの授業での単元目標とは

 アクティブ・ラーニングの授業における単元目標の決め方は、いままでの決め方と、ほぼ同じです。具体的には、文部科学省が発行している中学校学習指導要領の単元の目標をそのまま使います。たとえば、「第1学年 図形」の目標でしたら、

平面図形や空間図形についての観察,操作や実験などの活動を通して,図形に対する直観的な見方や考え方を深めるとともに,論理的に考察し表現する能力を培う。

となります。

 さて、1年生の図形の学習は、50分授業で何回くらい実施するでしょうか。おそらく少なくて13回ぐらい、多ければ15回か16回ぐらいだろうと思います。そして、それだけの授業が終了した時点で、生徒たちはどのような状態になっているでしょうか。

 1年生の図形ですから、図形についての用語を理解し、図形を移動させることができ、規とコンパスを用いた基本的な作図ができ、その作図の方法を他の生徒に説明でき、円とおうぎ形について円周率πを用いて円周や弧の長さや面積等を表現したり求めたりできる、というところだろうと思います。しかも、「観察、操作や実験などの活動を通して」学習するのですから、教師が一方的に教えるだけではダメです。

 アクティブ・ラーニングの授業であれば、ひとりも見捨てることなく学習に参加できるようになりますし、教師が一方的に教えるのではなく生徒が主体的に学習するようになりますし、そして、結果としてひとりも見捨てことなく単元を終えることができます。こういうことが、ちゃんとできるようになるのが、アクティブ・ラーニングの授業なのです。

単元の目標は、生徒にとっての目標

  アクティブ・ラーニングに限らず、教育には目標と計画があり、その目標を達成するために計画にしたがって授業を実施し、そして目標が達成できたかを確認するために評価があります。目標と実際の授業と評価がバラバラでは、教育とは言えません。

 アクティブ・ラーニングの授業の場合には、授業の主体は生徒ですから、目標は生徒自身の目標になります。実際の授業も、生徒が主体となって行われます。評価についても、担当教師の評価のほかに、生徒自身も日常的に自分自身を評価し、自分の力量を高めていくことになります。

 単元の目標も、生徒にとっての単元の目標でなければなりません。つまり、この単元を通じて生徒自身が何を達成すべきかを、生徒自身が知っていなければならないのです。

単元の目標は、毎時間の授業で繰り返し伝える

 単元の目標を生徒自身が知っているというものの、生徒はその単元をまだ学習していないのですから、学習後に目標を達成したときの自分自身の姿を正確に知ることはできません。また、授業の時間は、学習するための時間ですから、わざわざ単元の目標を知るために長い時間を費やすのは本末転倒です。

 そこで、単元の目標を次のような標語のような形に変えて、毎時間、生徒に伝えることになります。すなわち、

  • 目標は、単元全体ではなく、数時間ずつのまとまりの目標にすること
  • 目標は、教師が30秒以内に読める程度の文章にすること
  • 目標は、生徒自身が理解できる言葉で書かれていること
  • 目標は、生徒が暗記しやすい言葉で書かれていること

となります。上の図形の単元ならば、次のような文章になります。

  • 最初は図形を書いたり動かしたりすることに慣れることが肝心です。ただし、必ずきちんと説明して数学的な用語が使えるようになってください。
  • 「作図する」という書いてあったら、定規とコンパスしか使えません。道具の使い方を制限することで、いろいろと工夫することを身につけてください。
  • 円周率を「π」という文字で表したら、文字式の表し方のルールにしたがって、円周やおうぎ形の弧の長さや面積を表せるようになってください。

 これらの短い文章を、授業の最初に繰り返し生徒に伝えることになります。そうすることで、学級全体の共通の目標になり、ひとりも見捨てずに共通に追求していけます。

達成目標は定期テストの問題を事前に示す

 単元の目標としては、上のような言葉を繰り返し語って伝えていくことになりますが、では実際にはどの程度自分ができるようになればいいのかという達成目標も必要になります。

 そのために、前年や2年前の定期テストの問題を生徒全員に配布します。「単元が終った時に、この程度の問題が解けなければならない」という到達目標を示すことができます。

単元の目標には「ひとりも見捨てない」ことも含まれる

 単元の目標として、教科の内容だけを考えているのでは、十分とは言えません。ある学校で上の図形の単元の学習が終了し、最後のまとめの問題に取り組んでいるとします。

 あるクラスでは、数学が得意な生徒も苦手な生徒も、一緒になって問題に取り組んでいます。苦手な生徒は、自分が「わからない」ということを素直に伝え、得意な生徒は一所懸命に教え、それでもわからければ自分の教え方を工夫し、2通り、3通りの教え方や考え方を自ら習得しています。教室の中は「わかったあ」という声が飛び交うなど、とてもにぎやかです。うっかりしてコンパスや定規を忘れてしまった生徒がいても、男女関係なくお互いに融通しあって図形の問題に取り組んでいます。

 別のクラスでは、わからない生徒は「わからない」と言えません。教えてもらおうとすると「いまは、この問題を解くのに忙しいから待っててね」と断られます。コンパスや定規を忘れてきた生徒は、友だちに借りることができないので、じっとしています。教室の中はとても静かで、全員が自分の問題に取り組んでいるように見えます。しかし、クラスの20% から25%の生徒は、静かにしているだけでアタマの中は宇宙旅行に出掛けています。

 いままでは、後者のようなクラスばかりでした。だから、あまり目立たなかったのです。アクティブ・ラーニングの授業が広まれば、前者のようなクラスが当たり前になります。そして、このようなクラスを実現させるためには、そのようなクラスを学級全体でつくりあげることも単元の目標としてきちんと設定し、生徒の力も教師の力も総動員してクラスをつくっていくことが求められます。

 このようなクラスをつくるための合言葉が、「今日も、ひとりも見捨てないようにしよう。そして、ひとりも見捨てないようにするために、全員の力を出し合おう。先生も頑張るから、みんなにも頑張ってほしい」という言葉です。毎時間、教師がクラス全体に訴えることによって、目標に近づいていくことができます。