ひとりも見捨てないことを、あきらめない

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アクティブ・ラーニングでの授業準備 「毎回の課題を作ろう」

 最近は、初めてアクティブ・ラーニングや『学び合い』をやろうとしている先生のことを考えて、ブログを書いています。今日のブログも「初めてアクティブ・ラーニングに挑戦する先生が、その日の授業の課題づくりに悩んでいたら」という観点で書こうと思います。

 本日の内容については、次の2つの記事も参考にしてください。

 

課題をつくる目的と意義

 課題をつくるのは、その時間に生徒が何を学習するのかを、はっきりと生徒に伝えるためです。 アクティブ・ラーニングの授業では、「教科書の◯ページから◯ページまでの問題を解いて、そのうちのこの問題について解き方を他の生徒に説明できるようになりなさい」という形で生徒に課題を提示することが多くあります。

 以下に、1年生の図形の授業での、実際の課題の提示の仕方を黒板の写真で示します。字がとても下手なのは、御容赦ください。

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 この授業では、教科書の問2と問3が解けるように、生徒に対して指示を出しています。次の時間では、以下の写真のように指示を出しています。

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 ごらんのように、今度は、問4と問5が解けて、その解き方を説明できるように、生徒に指示を出しています。

 一見すると、簡単なように見えます。また、授業においても「じゃあ今日も、ひとりも見捨てないようにみんなで頑張ってもらえるかな? 今日の課題は黒板に書いておくから、ひとりも見捨てずに全員が達成できるように頑張ってください」と全体に指示をして、「はい、どうぞ」と生徒にバトンを渡します。

 実際のところ、具体的な作業はこれだけですから、毎回の授業で実施できますし、「今日は準備ができなかったから、生徒に課題を与えることができない」ということはありません。しかし、表面的に簡単に見えても、その中身は意外に奥が深いのです。そのことについて、以下に述べます。

 

「本日の課題」が、なによりも重要

 アクティブ・ラーニングの授業では、生徒が主体的に学習に参加します。どの程度主体的かというと、自分たちの学習が成立しているかどうかを自分たちで確認し、もしも成立していないのであれば自分たちで学習の方法を修正し、そしてひとりも見捨てずに全員が目標を達成できるところまで協力して学習を成立させる、という程度にまで主体的に学習します。

 このような学習をクラスの30人以上が一度に行うのですから、クラス全体では、多種多様な学習が行われます。数人で集まっていたり、2人だけで議論したり、ひとりで静かに学習したり、そして教室のあちこちに生徒がどんどん移動します。したがってひとりの教師が、すべての学習に「密着」して生徒の学習をコントロールすることは、不可能です。

 しかし50分の授業が終了した時点で、生徒の学習は、その日の授業の到達目標まで進んでいなければなりません。授業が計画通りに進むというのは、そういうことです。そのために教師に与えられた時間は、授業の最初の5分間だけです。そして、基本的に上の写真のような「本日の課題」と「教師のつぶやき」だけで、学級全体をコントロールしなければなりません。「教師のつぶやき」については、実際に聞いているのは学級の2割程度ですから、「本日の課題」がどれほど重要かは理解していただけると思います。

 

「本日の課題」で、生徒は自分自身を評価し、軌道修正する

 黒板に提示する「本日の課題」は、生徒が見ただけで内容が理解できるものでなければなりません。短い文章でしかも誤解が生じないようにしなければなりません。そして、生徒がなにをすべきかが、はっきりと伝わらなければなりません。

 たとえば、本日の課題が問1から問3までを解いてその内容をきちんと理解することだったとします。問題を解いてその答えをノートに書くことは全員ができたとしても、問1の解き方、問2の解き方、問3の解き方のすべてを文章化して、お互いに説明しようとすると、とても時間が足りないかも知れません。

 時間が足りないのであれば、たとえば問2の解き方をきちんと説明することで、他の2つの問題の解き方を理解できると判断したなら、「問1から問3を解きなさい。そのうち問2について解き方を200字以内の文章で書き、他の生徒に説明してサインをもらいなさい」という指示になります。生徒は、まず自分たちで問1から問3 までを解こうとし、その後、問2の解き方をお互いに説明することに集中します。この過程で、「だからさっき問1を解いたときに、こうやっだろ」というような会話が飛び交うことになります。

 「ひとりも見捨てずに全員が課題を達成する」ということを実現するためには、「クラスの全員がギリギリまで頑張って、なんとか課題を達成できるか、あるいは残念ながら達成できない人が少し残ってしまう」というレベルの課題を与える必要があります。板書してある「課題」はそのようなものですから、なかなか奥が深いのです。

 

どのようにして「今日の課題」をつくればいいのか

 まず基本は「本日の学習内容を全部解いて丸つけをする。そのうちの、この問題については解き方の説明を考え、実際に他の生徒に説明して、何人からサインをもらう」という形式になります。

 このうち「説明して」という部分は、「教えて」では双方向の学習になりません。比較的数学が苦手な生徒でも主体的に学習に参加するためには、「説明する」という形での参加が必要不可欠だと考えます。

 ⇒ 「他の人に説明し2人からサインをもらいなさい」の意味すること

 おそらく、すべての問題の解き方を説明してサインをもらうようにすると、時間が足りなくなります。そこで、本時の学習で最も重要な部分に焦点をしぼって、「この問題については、お互いに解き方や考えたを交流し、ひとりも見捨てずに理解できるようにする」ように求めます。また、説明したりサインを求めたする人数は、あまり多いと教室の中を移動することばかりに時間をとられてしまうので、適切な人数にするようにします。

 

単元の評価規準をきちんとおさえよう

 形式的には上のとおりですので簡単に見えるのですが、「そのココロは」の部分が、とても大切です。「この問題を解くことによって、どのような知識や技能や、数学的な考え方を身につけるのか」を、指導者がしっかり考えておく必要があります。

 具体的には、学習指導要領などの資料をよく読んで、その内容を生徒が理解できる言葉で表現し、繰り返し生徒に伝えていくことになります。

 ⇒ アクティブ・ラーニングでの授業準備 「評価規準と評価方法を決めよう」 

 また、黒板で「本日の課題」を提示したあとは、机間巡視をしたり、壁を背にして教室全体を見渡して、全体に聞こえるようにつぶやくことになりますが、その「つぶやき」は、本時の学習を目標どおりに達成させるためのものでなけばなりません。

 「おっ。◯◯◯くんが、すばらしい解き方をしているなあ」とつぶやくのは、◯◯◯くんの解き方が本時の学習課題からみて学級全体にプラスになるからそのようにつぶやくのです。そういう◯◯◯くんのすばらしい解き方を発見するためには、教師自身が「今日の授業では、これが大事だ!」というものを持っていなければなりません。

 また、そのような「今日の課題のココロ」をしっかり考えているからこそ、教師のちょっとした言動に現れ、結果として学級全体がコントロールされていくのだろうと思います。

 

課題の作り方のバリエーション

 アクティブ・ラーニングの授業での「その日の課題」の作り方には、いくつかのバリエーションが考えられます。以下の記事も参考にしてください。