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アクティブ・ラーニングの授業における課題の作り方(関数)

 最近は、初めてアクティブ・ラーニングや『学び合い』をやろうとしている先生のことを考えて、ブログを書いています。今日のブログは、初めてアクティブ・ラーニングに挑戦する先生に、関数の課題の作り方をお伝えするつもりで書いてみます。

 

授業で練習する問題と、テストのときの問題とは、できるだけ同じにする

 関数の領域に限った話ではありませんが、毎日の授業で学習した内容について、いざテストになると、あまり達成度が高くないということが、しばしば起こります。このような状況は、テストの成績が比較的良い生徒には起こりにくいのですが、テストの成績があまり良くない生徒だと、「この問題は授業で扱ったし、自分(教師)も手伝ってあげて、本人も納得したはずなのになあ」ということがよくあります。

 このような現象をとらえて、「テストの成績があまり良くない生徒は、応用力がない」などと言ったりしますが、これはあまりフェアな考え方ではありません。なぜならば、ア、まず学習した内容をきちんと理解しているか否か、イ、そのうえで新しい状況に対して応用ができるか否か、という2つの評価の仕方を混同しているからです。

 特に、数学が比較的苦手な生徒は、少しでも条件が変わると、とたんに問題が解けなくなります。これは人間の特徴として、ごく普通のことです。人間は、何かを覚えたり理解したするときに周りの情報も無意識に取り入れながら、自分の中に整理していきます(記憶の状況依存性、文脈依存性などと言います)。したがって、定期テストの問題のうちの相当数は、「授業で扱った問題とまったく同じ」でなければなりません。

 たとえば、ひとつのグラフ用紙にいくつかの関数のグラフを重ねて書くような問題があったとします。

 

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 この問題では、y = 2x と y = 4/x の2種類のグラフが一緒に書かれています。ところが、授業では、これらの問題は、普通、別々に学習します。

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 数学が比較的苦手な生徒の場合には、このような違いでも、まったく対応できなくなります。実際には、授業できちんと比例のグラフについては理解していたかもしれないのに、そのことが評価してもらえません。なによりも「せっかく勉強して、みんなにもたくさん教えてもらったのに、結局、テストの点数がとれなくて、やっぱりオレはダメだ」と考えてしまう可能性があります。

 このような事態を避けるためにも、授業で扱う問題と、定期テストで扱う問題は、ある程度は、きちんと一致させなければなりません。これは、逆の言い方をすると、単元の学習が始まる前に、定期テストの問題をちゃんと考えておいて、授業でも同じ問題を扱わなければならない、ということです。

 

問題が同じでも、テストと授業では状況が異なる

 テストと授業とでまったく同じ問題を使用したとします。それでも、テストと授業では状況が異なります。アクティブ・ラーニングの授業でなくても、一斉授業の場合でも、普段の授業では先生の声が聞こえます。机の上には教科書もノートもあります。隣近所の他の生徒と相談することもできます。

 定期テストでは、音もなく、教科書もノートもなく、机は隣と離れていて、相談もできません。状況が異なりますから、簡単には覚えた内容は出てこないのです。そして、テストの返却のときになると、普段の授業と似たような状態になりますので、「あー。そうだったんだよなあ。なんで、テストのときに思い出さなかったのかなあ」と言って、悔しがることになります。

 

アクティブ・ラーニングで、問題とまっすぐに向き合う

 数学が苦手な生徒が、問題を解けるようになるためには、数学の問題とまっすぐに向き合い、きちんと問題を解くしか方法がないだろうと思います。それは、単に他の生徒に教えてもらって、ウンウンとうなずくだけではありません。「わかったかい? じゃあ、どうやって解くのか説明してごらん」と言われて、何度も試行錯誤を繰り返しながらやっと説明することができて、周囲の生徒にサインしてもらうという、時間のかかることを、ひとりひとりの生徒が実行する以外に方法がないだろうと思います。

 このようにして、一生懸命に学習した内容を無駄にしてはいけないと思います。したがって、普段の授業で扱う問題と、定期テストのときの問題は、できるだけ同じものにしなければならないと考えます。

 

問題を同じにすることによって、普段の授業の取り組む方がさらによいものになる

 授業で扱う問題と、定期テストで扱う問題を同じものにすると、生徒たちの授業に対する取り組み方は、さらにレベルアップします。それは、次のような語り方によって可能となります。たとえば、定期テストの[4]の問題の出来があまりよくなくて、しかもこの問題が、授業で扱った問題とほぼ同じものだったとします。

 「今回のテストは、みんなとてもよく頑張りました。特に[5]番とか[7]番などの難しい問題に対して、細かい計算も含めて一所懸命に取り組んだと思います。しかし、残念なのは[4]番です。自分のノートを見てもらうとわかるけれど、この問題は、◯月◯日に取り組んだ問題と同じものです。あの日は、たしか、全員が課題を達成したと思います。しかし今回のテストでは◯◯割の人しかできていません。じゃあ、授業のときに「できた」と言っていたのは、何だったのかなと疑問に思います。本当は納得していなかったのに、なんとなくクラス全体がいいかげんに取り組んでしまったのではないでしょうか。今後のテストでは、そういうことがないように、ひとつひとつの問題について、ぜひ、しっかりと取り組んでください。」

 

補足1)

 理科と数学に関する文脈依存性に関する研究としては、たとえば、次のような論文が発表されています。

『理科と数学における文脈依存性の要因の追究 個人特有の心理的認識と論理的思考力の視点から』 北川知世理(奈良教育大学大学院 修士課程 教科教育専攻 理科教育専修)中村元彦(奈良教育大学 理科教育講座(物質科学))

 

補足2)

 たとえば、ある教室で覚えたことは、その教室で最もよく想起できたりします。この場合には、覚えたときに無意識のうちに符号化した身体内部と外部のエピソード情報が、想起の手掛かりになっていると考えられます。これを「符号化特定性原理」と呼びます。

 

補足3)

 私は、グラフを書いたり作図したりするときには、GRAPES というフリーソフトを利用しています。

 ⇒ http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/

 GRAPES は、複数のグラフを定義域を指定して書くことができます。比例のグラフや反比例のグラフで、定義域が指定されている場合には、点線の部分のグラフと実践の部分のグラフ書くと、まるでひとつのグラフが途中から点線になったり実践になったりしているように見えます。以下に、GRAPES を実際に操作している画面を示します。

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 GRAPES は、図形を書くときにも便利です。

 著作権については、次のように記載されています。「GRAPESについてのすべての権利は,友田勝久が有します.GRAPESを使って作成したデータや画像の著作権は,これらデータや画像の作成者に属します.」

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