ひとりも見捨てないことを、あきらめない

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「みんなで」を、強要していないだろうか?

「生きる力」について調べると、「自ら学び」「主体的に判断し、行動し」「自らを律しつつ」という言葉が並びます。つまり、「自分で考えて行動しなさい」ということです。考えたり行動したりするときには言葉が必要で、自分の考えや気持ちや要望を言葉に表し、その考えや気持ちや要望を相手にきちんと伝え、そして自分で行動したり、仲間と協働したりします。

 

例)初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について(答申):文部科学省

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ところが、日本の社会では「空気を読む」という言葉に代表されるように、言葉に表さずになんとなくその場の雰囲気を読み、まわりの考えや気持ちを察知して、自分の考えや行動を決定していくことが求められます。

もちろん、たとえば「静かにすべきときに静かにする」というのは、当然必要なことです。しかし、そのことを、言葉やシグナル無しに「とにかく自分で考えろ。そして察知しろ」というのは、実は危険なことではないかと思います。なぜならば、そこには「言葉」がないからです。

 

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自分の考えを持っていて、そのうえで意見を交流したり、お互いの求めるものを出し合って調整したり、上手な解決方法をさぐったりすることは、とてもよいことだと思います。

自分の考えをもっていてそれを言葉に表すことができれば、その考えの優れている点や、改善すべき点などについてお互いにやりとりできます。「折り合いをつける」ことも学べます。

ところが、言葉を使わずに「雰囲気を読む」のでは、自分の考えを言葉にすることができません。あるいは、言葉にした時点で、その考えは「自分の考え」ではなく「まわりの人と一緒の考え」です。もしも、子どもの頃からこういう訓練をしていたら、「自分の考えを持ちなさい」と言われても、持てるわけがありません。

こういう意味で、たとえば生徒指導の場面で、「雰囲気を読んで、まわりの空気を読んで行動しろ」と指導するのは、実は指導のスタイルとしては危険なものだと思います。なぜならば、「まわりの空気を読むことしかできない」生徒を育ててしまう可能性があるからです。

 

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「そんなことをしていたら、集会で生徒はいつまでたっても静かにならない」という意見が聞こえてきそうですが、これはルールを決めておくことで対応可能です。たとえば「前に立った先生が手をあげたら、口を閉じる、そして、もしもまわりに気づかない生徒がいたら、そっとささやいて教えてあげる」というルールを決めておき、そのルールにしたがって静かにすればいいでしょう。

また、全体がほぼ静かになった時点で、「それでは話を始めますが、皆さん、きいてもらえますか」ときちんと言葉でお願いし、生徒たちが「ハイ」と言うか、だまってうなづけば、「言葉やサインを用いた意見交換」になると思います。

いずれにしても、指導の場面で、「だまって雰囲気を読みなさい」という形で指導するのは、私は、あまり賛成できません。

 

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アクティブ・ラーニングの授業の際にも、同様の注意が必要だろうと思います。数学の勉強であれ、学級活動での様々な意見交換であれ、道徳などのオープンエンドな話し合いであれ、まず最初に確認すべきことは「自分はどのように考えているか」だと思います。

数学の問題が分からないときでも、「ここまでは分かっていて、ここがわからない」ということを確認できれば、そこから学習がスタートします。また、「これは、こうだと思っている」ということが、実は本人の誤解だったりもします。この場合には、周りの生徒が「本当はこうなんだよ」と修正することになります。

道徳でも学活でも、いろいろな意見があり、そのひとつひとつを大切にするところから「学び」は始まると思います。

生徒は、教師のちょっとした言動に強く左右されますから、教師のココロのなかに「他の生徒の様子をみて、空気を読んで行動しろ」という気持ちが潜んでいると、授業でも自分の考えを持つことができず、なんとなくまわりの意見と同じ意見を持とうとしたり、自分の考えを外に出さなかったりすると思います。

それは、結果的に、本人の成長を止めてしまうことになりかねません。また、学級全体、または学校全体が「まわりに合わせて行動しろ」という雰囲気を持っていると、そのこと自体がプレッシャーになってしまうことも懸念されます。

ひとりひとりを大切にすること。「みんなで」ではなく、違った意見や考えをもつこと自体を大切にし、そのうえで「折り合い」をつけることを重視すること。この2つが大切だろうと思います。