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学習指導要領の改訂ポイントメモ 無藤 隆(白梅学園大学)

以下の文章は、 無藤 隆 先生(白梅学園大学)の文章です。出典は
https://www.facebook.com/notes/945385252273617
です。本来であれば「シェア」すればよいところですが、フェイスブックのアカウントを持っておられない方には見ることができないということと、自分自身が忘れてしまいそうなので、こちらに転記させていただきました。

学習指導要領の改訂ポイントメモ
2016年9月18日
新しい教育課程の目指すところ

無藤 隆(白梅学園大学

 

社会に開かれた教育課程
 これからの教育課程には、社会の変化に目を向け、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されている。未来社会を多くの人々と共に構想し、また今の学校を囲む社会の諸々の人々と連携・協働し、さらに子供自身が主体的に生きていくだけの力を備え、自らの将来を切り開けれるようにしていく。そのため、①社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していく。②これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓ひらいていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいく。③教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させる。 
 この「社会に開かれた教育課程」の実現を目標とすることにより、学校の場において、子供たち一人一人の可能性を伸ばし、新しい時代に求められる資質・能力を確実に育成したり、そのために求められる学校の在り方を不断に探究する文化を形成したりすることが可能になるだろう。

 

学習指導要領の大枠
 新しい学習指導要領等の大枠は次のように整理して提示する。
ⅰ)「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
ⅱ)「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
ⅲ)「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)
ⅲ)「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
ⅴ)「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
ⅵ)「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)
 こうした改善を実現するためには、総則においては、教育課程を軸に各学校の特色づくりや学校経営の改善が促されるよう、前述のⅰ~ⅵに沿って必要な事項を整理していくことが求められる。各教科等においては、育成を目指す資質・能力を明確にし、教育目標や教育内容を再整理するとともに、各学校における指導上の創意工夫の参考となる、各教科等の特質に応じた学びの過程の考え方も併せて示すこととしている。

 

カリキュラム・マネジメントの重要性
 資質・能力の育成に向けては、学習指導要領等に基づき、目の前の子供たちの現状を踏まえた具体的な目標の設定や指導の在り方について、学校や教員の裁量に基づく多様な創意工夫が前提とされている。新しい時代に求められる資質・能力の育成やそのための各学校の創意工夫に基づいた指導の改善といった大きな方向性を共有しつつ、その実現に向けた多様な工夫や改善の取組を活性化させようとするものである。
 そのため、各学校における「カリキュラム・マネジメント」の確立を進める。各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実状等を踏まえて、各学校が設定する学校教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、それを実施・評価し改善していくことが求められる。これが、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」である。
 「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子供たちに必要な資質・能力を育成するという、新しい学習指導要領等の理念を踏まえれば、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の三つの側面から捉えることができる。

ⅰ)各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
ⅱ)教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
ⅲ)教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
 要するに、学校が持つ広い意味での資源である時間、人員、予算、社会資源等を重点化しつつ、必要なところに割り当て、さらにそのマネジメントとそれに基づく実践がうまくいっているかどうかのチェックと改善の一連の過程を進めるのである。そのためには、管理職のみならず全ての教職員が「カリキュラム・マネジメント」の必要性を理解し、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置付けを意識しながら取り組む必要がある。また、学習指導要領等の趣旨や枠組みを生かしながら、各学校の地域の実状や子供たちの姿等と指導内容を見比べ、関連付けながら、効果的な年間指導計画等の在り方や、授業時間や週時程の在り方等について、校内研修等を通じて研究を重ねていく。

 

資質・能力の三つの柱
 資質・能力を以下の三つの柱として整理した。
①「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」各教科等において習得する知識や技能であるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互に関連付けられ、さらに社会の中で生きて働く知識となるものを含むものである。知識相互がつながり関連付けられながら習得されていく。それは、各教科等の本質を深く理解するために不可欠となる主要な概念の習得につながるものである。基礎的・基本的な知識を着実に習得しながら、既存の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、学習内容の深い理解と、個別の知識の定着を図るとともに、社会における様々な場面で活用できる概念としていくことが重要となる。
②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」
将来の予測が困難な社会の中でも、未来を切り拓ひらいていくために必要な思考力・判断力・表現力等である。物事の中から問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程や、精査した情報を基に自分の考えを形成し、文章や発話によって表現したり、目的や場面、状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い、多様な考えを理解したり、集団としての考えを形成したりしていく過程、さらに思いや考えを基に構想し、意味や価値を創造していく過程などである。
③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
 上記の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、情意や態度等に関わるものが含まれる。主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくためには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する力や、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが求められる。多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するものなどである。

 

「見方・考え方」の重要性
 学びの過程の中で、“どのような視点で物事を捉え、どのように思考していくのか”という、物事を捉える視点や考え方も鍛えられていく。こうした「見方・考え方」は、各教科等の学習の中で活用されるだけではなく、大人になって生活していくに当たっても重要な働きをするものとなる。この「見方・考え方」を支えているのは、各教科等の学習において習得した概念(知識)や考え方である。知識が豊かになれば見方も確かなものになり、思考力や人間性が深まれば考え方も豊かになる。いわば、資質・能力が、学習や生活の場面で道具として活用されているのが「見方・考え方」であり、資質・能力を、具体的な課題について考えたり探究したりする際に必要な手段として捉えたものであると言えよう。各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすのが「見方・考え方」であり、教科等の教育と社会をつなぐものである。

 

アクティブ・ラーニングへの指導の改善
 「アクティブ・ラーニング」、すなわち「主体的・対話的で深い学び」の実現とは、以下の視点に立った授業改善を行うことで、学校教育における質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることである。
①学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。子供自身が興味を持って積極的に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、身に付いた資質・能力を自覚したり、共有したりすることが重要である。
②子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。身に付けた知識や技能を定着させるとともに、物事の多面的で深い理解に至るためには、多様な表現を通じて、教職員と子供や、子供同士が対話し、それによって思考を広げ深めていくことが求められる。
③各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。