ひとりも見捨てないことを、あきらめない

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「メモをとるって、どうやるの?」

 生徒たちは、教科書で勉強する場合でも、教師の話を聞く場合でも、読んだ(聞いた)文章の要旨を読み取り、その要旨を記憶に留めます。上の標題は、このときのメモに関することです。

 私は、信州大学の島田英昭先生から御紹介いただき、認知心理学に関する書籍を「のんびり、のんびり」読んでいます。

この本の、p186からp187にかけて、「文章記憶と要約作業」に関するコラムがあります。それによると、

  • 400語の文章を与え、最初に文章を与えた直後と、文章を与えてから5分後の2回にわたって「文章の要旨を再現させる」というテストを行った。
  • この5分の間には、被験者は元の文章のコピーとメモ用紙や筆記用具を与えられ、自由に学習することが許された。
  • 被験者は、小学生、中学生、高校生の3つのグループに分かれていた。
  • 結果は、小学生では「直後」と「5分後」で成績に変化はみられなかったが、中学生と高校生では「5分後」の方が成績が向上した。
  • したがって学習している5分間の行動の差が成績に現れたとか考えられるが、実際には、中学生、高校生は元の文章にアンダーラインを引いたり、要旨をメモしたりする行動がみられた。

とのことです。

 アタリマエと言えばアタリマエのことですが、中学生や高校生になると、読んだ話や聞いた話の中の重要な部分をつかみとり、その場所にアンダーラインをひいたり、メモをとったりすることが次第にできるようになるということです。

 では、「文章を読み(あるいは聞き)、重要な部分をつかみとり、アンダーラインをひいたりメモをとったりする能力」は、どのようにして獲得すればよいのでしょうか。

 おそらくは、もともと人間には文章を読み取って重要な部分を把握する能力が、先天的に備わっているのだろうと思います。そうでなければ「どのような学習活動を経てきたとしても、要約したりメモをとったりする能力が育っていく」ということが説明できません。しかしながら、これらの能力は「人と人との関係」において必要な能力ですから、実際に多様な形でやりとりしながら獲得していく方が、より効果的でしかも正確な形で育っていくだろうと、私は思います。

 数学の教科内容を生徒に伝えていても、このことは感じられます。シンプルな言い方をすると、「ちゃんと分かっている生徒は、ノートにちゃんとメモしてある」のです。これもアタリマエと言えばアタリマエですが、数学は抽象性が高いので、生徒のノートのメモを見ることで生徒の理解度も、けっこう的確に把握することができると、私は思います。と、同時に「どのようにメモすべきかということは、残念ながら教師が生徒に伝えることは本質的に不可能である」ということも感じています。なぜならば、「このようにメモしなさい」と言うと、生徒は忠実に、そのとおりにメモしてしまうからです。場合によっては、色とりどりのペンを使って、とても美しくメモしてくれます。しかし、中身は全然分かっていないことが少なくありません。メモをとって理解するという行動は、極めて能動的、主体的な行動なので、指導者が「こうしなさい」と言ってもおそらくほとんど効果はないだろうと思われます。

 では、どうするか、ということになりますが、この場合にも『学び合い』は、とても有効な手段だろうと思います。生徒たちは、数学であれ、道徳であれ、学級活動であれ、行事に関する何らかの説明であれ、「話を聞き、メモをとり、要旨を正確に理解し、記憶する」という作業が含まれます。そこで次のように具体的に話してみてはいかがでしょうか。

 じゃあ、いつものように、これから大切なことを説明します。説明の時間は5分間です。最初は、黙って聞いて下さい。メモをとったりすることももちろんOKです。その後5分間、皆さんに自由に時間を与えますので、私の話した内容について、お互いに確認してください。大切なことについては、もちろん一人残らずきちんと理解してほしいと思います。話のなかの重要な部分を見つけ出し、確実に理解するというのは、大人になってからも重要ですよね。皆さんには、そういう力を確実に身につけてほしいので、ぜひみんなで力を合わせて、ひとりも見捨てずにお互いに助けあってください。それでは、話を始めます。

 このようにして、生徒自身が自分の認知能力そのものを伸ばしていこうとする、メタ認知の学習が可能になると思います。