ひとりも見捨てないことを、あきらめない

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アクティブ・ラーニングの授業における課題の作り方(図形)

 最近は、初めてアクティブ・ラーニングや『学び合い』をやろうとしている先生のことを考えて、ブログを書いています。今日のブログは、初めてアクティブ・ラーニングに挑戦する先生に、図形の課題の作り方をお伝えするつもりで書いてみます。

 

教科書を使うときは、極力、教科書のとおりに使う

 教科書に書かれていることを、教師が「たぶん、これで大丈夫だろう」と考えて、途中を省略したり、数値を変えたりして授業で使う場合があります。これは、できるだけ避けた方が良いと思います。

 御存知のとおり、教科書は教科書会社の編集のもとで、全国でも有数な、大変力量のある先生方が執筆しています。そして、文部科学省の検定を経て、全国の学校に送り届けられています。教科書の題材の選び方、配列の仕方、数値の選び方、解説の仕方などは、非常に綿密に計算されてつくられています。

 授業やテストの際に、「教科書とまったく同じでは良くないから」と考えて、順序を変えたり、説明を変えたり、数値を変えたりするのでしょうが、そのように変更すると、教科書よりもさらに良くなるという自信がある場合を除いては、きちんと教科書どおりに扱った方がよいと思います。

 

図形の学習では、教科書の題材の扱い方に特に注意する

 たとえば、中学校1年生の図形で、垂直二等分線や基本的な作図を学習する場面があります。ある教科書では、まず以下のような図がでてきます。

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 そして、この図の説明として「線分の両端から距離が等しい線分上の点を、その線分の中点といいます。線分の中点を通り、その線分と垂直に交わる直線を、その線分の垂直二等分線といいます」と説明しています。

 では、板書やノートやプリントでは、この図はどのように作図すべきなのでしょうか。実は、この教科書では基本的な作図は、垂直二等分線の学習よりも後に出てきます。したがって、この図を学習している時点では、「線分の両端からコンパスを用いて円を2つ書き、円の交点を結んで垂直二等分線を作図する」ということを、生徒は知りません。

 ですからこの図では、線分ABの長さを測って、長さの半分のところに印をつけて中点とする。その後、直角三角形の直角を線分ABにあてて、中点のところからタテの線を書く、という方法で作図することになります。

 「そんな作図の方法では、正しい作図にならない」とお考えの先生もいらっしゃると思いますが、単元が終了した時点で、垂直二等分線について正しく理解し、またその作図の方法についても正しく理解していればよいのであって、そこに至る道筋は多様であってもかまわないし、実際に多様になるのが普通です。

 

アクティブ・ラーニングの授業でこの題材はどのように扱うべきか

 本当は、何も解説したりせずに「教科書の◯◯ページをよく読んで、内容を理解しなさい。また、問題を解いて図をノートに書きなさい。そして、どのように図を書いたのかをクラスの2人の友達に説明して、納得してもらったらサインをもらいなさい」というように投げかけるのが一番良いのですが、もしも、この授業が一番最初のアクティブ・ラーニングの授業だとすると、それではとても不安だろうと思います。

 教師は、授業の最初に5分間、話をする時間が与えられているとすると、次のように生徒に伝えてみると良いと思います。

 「今日は、アクティブ・ラーニングの授業をやってみます。一番大切なことは、ひとりも見捨てないことです。授業が終わったときに、全員が分かったと言えるように、みんなで努力してください。私も一緒に頑張ります。それでは、教科書の◯◯ページを見てみましょう。一番大切なところを読みますので、聞いて下さい。

 「線分の両端から距離が等しい線分上の点を、その線分の中点といいます。線分の中点を通り、その線分と垂直に交わる直線を、その線分の垂直二等分線といいます」

 今日の皆さんの課題は、中点と垂直二等分線について理解することと、教科書の問いにすべて正しく答えることです。まず、ノートに線分ABを書いて下さい。それから、中点と垂直二等分線を書いて下さい。分からない人や、うまく図がかけない人がいるかもしれないので、どんどん席を移動して、助けてあげてください。では、作業を始めて下さい」

 

生徒はどのように行動するのか

 実際に上のように指示を出すと、生徒は放っておいても線分の長さを定規で測り、半分のところに印をつけて、えんぴつで「中点」と書き込みます。そして直角三角形の直角を用いて線を引こうとします。ほとんどの生徒がこのように行動します。

 なかには、塾などで定規とコンバスを使う方法をあらかじめ学習している生徒もいます。そのような生徒が実際に定規とコンパスで作図するのは、黙ってみていてあげてください。必ず、まわりの生徒が、「すげーー。そんな方法があるんだ」と感嘆の声をあげてくれます。そのタイミングをみはからって、「おーい。◯◯くんが、なんだかすごい方法を知ってるみたいだぞう」と、大きな声でつぶやきます。すると、教室中からみんなが◯◯くんのところにやってきて、「すげーじゃねーか」、「こんな方法、どこで習ったんだ?」などと言ってくれます。

 

教科書に忠実に課題をつくっていけば、自然に感動する場面が生まれる

 教科書は、まだ学習していないことと、これから学習することを、非常に上手に配列しています。よく読んでみると、発見や感動がたくさん生まれるように工夫してあります。一斉授業では、そのような発見や感動を、全部、黒板の前の教師が独占してしまいます(あるいは、せっかく発見や感動があるのに、省略してしまいます)。

 生徒が主体的に学習に取り組むアクティブ・ラーニングの授業では、教科書に対する取り組み方も多様ですし、さまざまな発見も生まれます。そして「ひとりも見捨てない」という取り組みによって、すべての生徒に学習が保証されます。

 

■ ■ ■ 補 足 ■ ■ ■

 私は、グラフを書いたり作図したりするときには、GRAPES というフリーソフトを利用しています。

 ⇒ http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~tomodak/grapes/

 GRAPES は、複数のグラフを定義域を指定して書くことができます。比例のグラフや反比例のグラフで、定義域が指定されている場合には、点線の部分のグラフと実践の部分のグラフ書くと、まるでひとつのグラフが途中から点線になったり実践になったりしているように見えます。

 GRAPES は、図形を書くときにも便利です。

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 著作権については、次のように記載されています。「GRAPESについてのすべての権利は,友田勝久が有します.GRAPESを使って作成したデータや画像の著作権は,これらデータや画像の作成者に属します.」