正の数・負の数 第12回「負の数の乗法」
教科書のページ:
p32~p33
生徒に伝える評価の尺度:
- 教科書の「考えてみよう」と「問2」、「問3」をすべて解きなさい。
- 丸付けをして、間違いを直しなさい。
- なぜ負の数と負の数をかけるとプラスになるのか、自分で納得できる説明を考えなさい。
- その説明を、他の2人に説明して、納得してもらえたらサインをもらいなさい。
予想される生徒の反応:
今回の授業は、中学校の数学での最初の大きな難関である「負の数と負の数をかけると正の数になる」という部分である。啓林館の教科書では、「かける数をだんだん減らしたらどうなるか」ということを生徒自身が考え、法則性を見出して、「負の数と負の数をかけると正の数になる」ことを導こうとしている。
また、これとは別に数直線を用いて、「負の数をかけることは、もともとの矢印とは反対方向に何倍かすることになる」という考え方も紹介している。
このほか、この教科書では扱っていないが、「借金が減っていく」等のさまざまな解説方法について、多くの先生方が研究している。生徒に対する発問の仕方や、授業の展開の仕方なども、とてもたくさん研究されている。
しかし、どの研究についても共通しているのは、「どんなに卓越した説明の方法を用いても、うまく理解できない生徒が必ず存在する」ということである。1通りの説明では、すべての生徒に納得してもらうの不可能である。
だからといって、1回の授業で2通りも3通りも説明をすれば、生徒は混乱するばかりである。そして、ますます教師の一方的な「説明だけの授業」になってしまう。また、複数の異なる説明を聞いているうちに、最初は納得していた生徒までが、「もしかするとオレの理解は、間違っていたんじゃないだろうか」と考えるかもしれない。
そこで、「生徒は本質的に、ひと通りの説明では理解することは難しく、さまざまな説明を聞いて、そのなかから自分の納得する理由や説明を選んでいく」という仮説を立てられる。
実際、「負の数と負の数のかけ算」については、似たような説明をしているように見えて、それぞれの生徒に対して細かく説明の仕方を変更しながら、なんとか友達を理解に導こうとする様子が、学級全体でみられる。
このような学習の場面で、生徒は、「だけどさあ。どうしても納得できないんだよなあ。なんで、負の数と負の数で負にならなくて、正になるんだよ」などの素朴な疑問を、口に出して問うことがしばしばある。教師であれば、手を変え品を変え、さまざまな説明を試みるかもしれない。しかし、生徒は愚直である。同じような説明を、何度も何度も、辛抱強く繰り返し伝えている。
たとえばA君という生徒が、なかなか理解できなかったとする。A君に対して、ある生徒が一生懸命説明してたが、残念ながらA君は納得しないかもしれない。そこで、別の生徒がまたA君に対して同じ説明を繰り返す。そのうちに、その説明を近くで聞いていたB君が「じゃあ、オレが説明する」と言い始める。実はB君は、A君と似たような数学の成績で決して数学は得意ではない。得意ではないけれど、みんながA君に対して説明を繰り返すのを聞いていて、「門前の小僧、習わぬ経を読む」で、いつのまにか説明が頭に入ってしまったのである。
このB君は、A君の親しい友人で、「いいか。よく聞けよ」という言葉で説明が開始され、「だから、こうなるんだよ。わかったか」で終了する。その瞬間に、A君が「あ。わかった」と叫ぶ・・・などという光景が、あちこちのクラスで繰り返し発生するのである。
私も、最初は「こんなドラマみたいなことは、きっと珍しい現象なのだろう」と思っていた。しかし、あちこちのクラスで、繰り返し同じような「ドラマ」が生じるのを実際に見て、やはり、これは何らかの一般性のある現象かもしれないと感じるようになってきた。
「負の数と負の数のかけ算」は、アクティブ・ラーニングで授業を行うには、絶好の題材である。ぜひ、試してみていただきたい。
板書の補足:
- 正の数 X 負の数 は 絶対値の積に負の符号をつけます。
- 負の数 X 負の数 は 絶対値の積に正の符号をつけます。
教科書:
未来へひろがる数学(啓林館)
学年:
中学校1年生
(以下、毎回記載します・・・)
文部科学省が積極的に推進しようとしてる「アクティブ・ラーニング」では、生徒が自分自身で意欲をもって学習に自主的に取り組み、お互いの意見交換を通じて、生徒が自分自身で学習内容を習得したり、解決方法を見出したりすることを重視しています。また、単に知識・理解だけでなく、「ものごとを最後までやりとげようとする。また、実際に最後までやりとげる」、「自分だけではなく、クラスの友人のことも考えながら、ともに学習をすすめようとする」、「他者を助けることを尊び、実際に協力しながら他者を助けていく」などを重視しています。
さらに、生徒が自分自身で自分の到達度を確認・評価し、自分自身の向上のために役立てていくことが求められます。このため、生徒に示す評価の尺度は、生徒自身が理解できるような言葉でなければなりません。
冒頭の学習内容において、もしもアクティブラーニングを実施するとしたら、どのような評価の尺度を与えるのがよいか、また、その際に予想される生徒の反応はどのようなものかについて、記載しています。「実際の授業」とは、授業の進め方などは異なる場合があります。また、「常にこのような形で授業をしている」わけではありませんので、御了承下さい。